安心感が個性を伸ばす ラポールが目指す「森型」経営とは

「ラポール」をご存じでしょうか?

ブルーグリーンの店構えが目印、5店舗を展開している人気の洋菓子店です。スマイルが描かれた小さなチーズケーキ「スリール」で知っている人も多いかもしれませんね。ラポールはケーキ屋さんですが、「お菓子を通して社会問題を解決する」というビジョンを掲げています。

障がい者アートを取り入れた「エイブルクッキー」の開発、就労支援事業所(株)Akariの立ち上げや、
地方創生を目指すプロジェクト「完熟石畳栗スイーツプロジェクト」の商品開発など、お菓子を通じて心をつなぐ仕事を生み出しています。

そんなソーシャルスイーツカンパニーを引っ張っているのが、社長の橘憲一郎さん。いつもニコニコ、さわやかな橘さんですが、実はたくさんの苦労を重ねてきています。意外な過去、失敗から学んだこと、これからのビジョンetc…たっぷりお伺いしてきました。

仕事ってなんだろう

橘さんは、昔からバリバリやり手の経営者という感じですが、最初からお菓子の会社をつくりたかったのでしょうか?

ぜんぜんです。大学卒業後はフリーターをしていました。大学時代、ハンドボール部だったんですが、のめり込みすぎて夏のインカレが終わってから「あれ?就職決まってないの僕だけ?」という状況で。

それ、のめり込みすぎでしょ(笑)

はい・・・気づいた時は、もう合同就職説明会なんてどこでもやってなかったです。もう、バイトしかするしかなかくて。そんなとき、衝撃的な光景に出会ったんです。

通勤ラッシュの朝、バイト先に車を走らせていたとき、通勤ラッシュにはまったんです。ふと、「みんなどんな顔をして仕事に向かっているんだろう」対向車のドライバーに目を向けると・・・しんどそうで覇気がなく、顔が疲れ切っている。たまたまかと思って、次の車に目をやっても、その次もその次も変わることはなかった。

あちゃ〜!現実を見ちゃった・・・。

会社っていったいどんなところなんだろう。仕事ってなんだろう。僕は、「仕事が楽しみで仕方ない」そう感じるような仕事がしたい。そう強烈に意識した瞬間でした。

スタバで働きたい!!!

希望にあふれた大学生にとってヘビーな体験でしたね。大学卒業後、就職はどうされたんですか?

就職先が見つからず、実家の喫茶店を手伝いをしていました。「自分は何が向いているんだろう?」「大学まで卒業させてもらって何してるんだろう?」悶々とした気持ちを抱えながらも手伝いをしているときに、気づいたことがあったんです。毎朝、決まった時間に来店して、決まったテーブルで決まったモーニングを食べて、決まった時間に会計を済ませ、お店を出る人々。その人の一日のスケジュールに喫茶店が組み込まれている!それってその人の人生に関わっているということじゃないですか。おもしろいな~と思ったんです。

ふむふむ。興味深い!

そんなとき、ハワード・シュルツさんが書いた「スターバックス成功物語」という本を読んで、「ピープルビジネス」という言葉を知りました。そこには、もっとも大事なのは「人」だということが書いてあったんです。スターバックスはコーヒーを売っているのではなく、「人」を売っている。ここに、僕の理想の働き方が詰まっている気がして、すぐにワクワクしながら関西1号店に出かけました。

脅威の行動力!!!!

決まったら、のめり込むのは得意なんです(笑)愛媛からわざわざ大阪に出かけて行ったはじめてのスターバックス。そこで見た光景は衝撃的でした。てきぱきと列のオーダーをとり、笑顔で働いているパートナーたち。ドキドキしながら注文をして、客席から眺める光景はまるで映画のよう。シュルツさんの言っているピープルビジネスは本物だ!と感じました。そして、「ここで店長をする!」と決意したのです。

本当に、決めたら早いっ!!!!

ただ、採用の道はとても険しくて・・・。早速エントリーしたけれど不採用。新卒、第二新卒、中途枠とチャレンジするもすべて不採用。神戸にできた新店舗にアルバイトから応募するも、これまた不採用。「あまりスタバの雰囲気に合っていない」と面接官に言われたことも。

スタバに似つかわしくない人の図(笑)
ここらへんのお話は、橘さんのnoteをご覧ください!

スタバに似つかわしくない雰囲気って…(笑)!

でも、どうしても諦めきれなくて、当時の角田社長に長々と手紙を書いたんです。すると「アルバイトの面接に来ませんか?」と電話がかかってきて、池袋店でアルバイトをすることに。そこから8年間、のめり込むように働きました。店長も経験し、オープン売り上げ世界一という実績も手に入れることができました。

人を大事にしたいはずなのに・・・

橘さんがスタバ出身とは知りませんでした。それから、どうして愛媛に帰ってくることになったんですか?

父から声をかけられたんです。「創業10年になる喫茶店をリニューアルしようと思う。1Fにケーキ屋、2Fに喫茶。こじんまりとケーキ屋を併設するか、ドーンとするか?どう思う?」って質問されて。何気なしに「ドーンとすれば?」と答えると・・・いつの間にか5階建てマンションが建っていました。1F2F合わせて100坪を超える店舗。それが今「珈琲館華夢」がある井門町のビルです。

ドーーーーン!!!

なるほど、それが「ラポールde華夢」のはじまりだったんですね。当時は1階がケーキ屋さん、2階がカフェでしたよね。よく覚えています!

そこで5年間、僕はたくさんのことを学びました。人を大切にするという経営からはほど遠かったと思います。スタバで修行したという自負、実績へのおごり。自分の未熟さで、たくさんの人が辞めていきました。

そんなことがあったんですね。なぜ人が辞めていったのですか?

ズケズケ聞いてすみません・・・

当時の僕は、完全にトップダウンでした。お金のことが気になって、決めたことは完全にやらせるスタンス。売り残りがあれば責め立て、去る者は追わずの超ドライな経営でした。お客さんに「ありがとうございました」と挨拶をしながらも、頭のなかは常にお金のことでいっぱい。「次の支払いどうしよう」そんなことばかり考えていました。給料日が終わると、胸をなで下ろす日々・・・。

わ〜考えるだけで胃が痛い・・・。

社員が「給料を上げてほしい」と訴えてきたことがあったのですが、そんな状況なので「上げるのは、難しい」と即答したのですが、その次の日に退職届を出されてしまって。あの時、ちゃんと声を聞いてあげたらよかったと後悔しています。

ううう・・・、それは辛い出来事でしたね。

少しずつ改善が進んでいると思っていた、4年前の出来事です。スタッフみんなから手紙をもらったのです。そこにはみんなの不安がたくさん書かれていました。A4に3~4枚びっちり!「現場を大事にしていない」「行く先が分からない」etc…。人を大事にしたいとあんなに思っていたのに、人を全然大事にできていなかった。そこからラポールは、本店の移転を決意し、「対話」を大事にする経営スタイルに変えることにしたんです。「不安」の裏側には、「期待」と「信頼」があることを感じ取れました。

対話型経営にチェンジ

対話をつくるため、具体的にどんなことを改善していったんでしょうか?

店長会にプラスして、委員会活動をスタートさせました。おもてなし委員会、子育てをサポートするような委員会、理念やスキル委員会など、店舗を横断し、意見交換する機会をつくったんです。企画してくれるのは、正社員さんだけでなくアルバイトの主婦のみなさんも。次第に、自分たちのアイディアや声が生かされるようになり、やっとスタッフ参画型経営になってきました。あとは「人不足」の問題を解決するために、ラボを稼働させるようにしたんです。

ラボというのは・・・?

「すべてを店舗で手作りしないといけない」という概念を変えることにしたんです。生菓子は各店舗でつくっているのですが、焼き菓子やスリールはマシンをつかって自社工場でつくります。パティシエといえば、何年も修行が必要というイメージがありますが、ラボを持つことで未経験者も作業がしやすくなります。これからはパイの製造もラボでできるようにして、就労支援に結びつけたいと思っています。・・・なんて、偉そうに言ってますが、企画・実行は児玉専務と藤田執行役員ですね(笑)

なるほど~。ここで就労支援とつながってくるのですね!

本当の笑顔のために

ラポールさんは、以前から障がい者の方の自立支援をしているイメージなのですが、それはなぜなのですか?

スタバ時代、「スペシャルオリンピックス」といって知的障害のある人たちが、さまざまなスポーツの成果を発表する競技会に連れて行ってもらったことがあるんです。そこで出会ったのは、選手達のとびきりの笑顔でした。すごく元気をもらって、障害者の支援に関わりたいって思うようになったんです。また別の機会でも、東京に障害者アートを観に行く機会があり、そのときもすごく元気をもらったんです。

なぜ元気をもらうのだと思いますか?どのようなところに惹かれるのでしょう?

スペシャルオリンピックスのときに感じたのは、「ありのままの笑顔」でした。誰かに気を遣うことがない、生まれたままの笑顔。ラポールをはじめた5年間、僕がなくした笑顔です。障害者アートからは、「感じたままに、シンプルに生きる」ということを感じました。「格好よく見せよう」とか、「売ろう」みたいなものがない。お菓子も一緒だなぁと感じました。

深い・・・。橘さんが本当に大切にしたい想いがそこに詰まっているのですね。

妻とも就労支援の現場で知り合ったんです。妻のお姉さんが障がい者で、うちの商品のシール貼りをしてくれていたんです。妻はとっても明るくて、一緒にいるだけでその場を明るく照らしてくれる存在。たくさん支えてもらっています。

就労支援は、奥様との出会いのきっかけでもあるんですね。とっても素敵です。

これからは「何もしない」がテーマ?

対話型にしてから、経営が前に進みはじめたとのことでしたが、これからやりたいことってありますか?

「土づくり」です。

・・・つ、土??

先ほど「対話を大事に」という話をしましたが、対話を大切にする一方で、「何もしない」「信じて待つ」というのが今後のテーマなのかな?と思っています。問題が起こったとき、すぐ一緒に解決策を考えるのではなく、一度自分で考える。自分はどうしたいかを考える。ラポールは採用に力を入れているのですが、それは「後継者を探したい」という気持ちがあるからです。

「まわりにどう思われるのか?」ではなく、その人が本当にやりたいことを応援したい。「“不安”“怖れ”から力を使うこと」が、限界にきているようにも思うんです。子どもの長期欠席や引きこもりの推移を見ると・・・
「植物は、土がよいと育つ」と生産者さんに教えてもらいました。僕はよい土をつくって、いろんな花を咲かせたいんです。
我慢して我慢して、「誰かのために生きる」人生ではなく、本当の自分らしさを生かして人生を生きてほしいんです。

なるほど・・・橘さんがいろんな経験をしてきたからこそ出せる理念ですね。

はい。豊かな土をつくって、多様な花や木々が育つ「森型経営」を目指しています。

ありのままの自分でいいよ

最後に・・・橘さんにとって、ケーキ屋さんってどんな存在ですか。

ケーキって誕生日に食べるイメージがありますよね?誕生日をお祝いするのって、「生きているだけでいいよ。生きているだけでありがとう」という気持ちだと思うんです。

しかし、「テストでいい点とったら」「かけっこで1位になったら」「志望校に合格したら」…と受け取り側は、条件付きの愛に変わっていくんです。

あぁ・・・確かに。「受け取り側」の問題でもあるんですよね。勝手に期待を背負ってしまう。自分で、自分のありのままを受け入れられなくなるというか。

「甘さ」は安心感だったり、喜びでもありますよね!
生きているだけでいいんだ」という安心感があれば、人は必ず持っているものを発揮できると思うんです。僕は、「ありのままの自分でいいよ」と安心してもらえる土づくりに集中したい。

僕と出会った人が、みんなありのままの自分で、安心感を持って能力を発揮できる…そんな会社を目指したいです。

サボってません。仕事してます。

あぁ〜とっても素敵な理念です。
こんな会社に入れたらとっても幸せでしょうね。
スタッフさんといいご縁が見つかりますように。

お知らせ*新作「キュール」発売スタート!

ラポールの新作「キュール」が店頭、ネットショップともに販売スタートしました。
私もいただきましたが、めちゃくちゃ美味しいです。
ギフトにもおすすめ!ネットショップでも購入できますのでぜひ味わってみてくださいね。

【採用情報】
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写真by mame

有限会社ラポール

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