2021年10月、北条の海沿いにオープンした「お節介いとうしゅん治療院〜北条しおかぜ院〜」 のいとう夫妻をご存じですか?
自ら「脊髄小脳変性症」という難病を抱えながら、治療院を営む院長のしゅんさん。
しゅんさんの11歳年上で、しゅんさんと出会う前に結婚経験があり、二児の母でもあるまゆみさん。
ふたりの間には、ちょっと変わった出会いがあり、パートナーシップがあります。
今回の記事では、ふたりのパートナーシップを語るとともに、いとうしゅん治療院が「お節介」たる所以を、深堀していけたらと思います。
難病の発覚
しゅんさんって、治療院を開業される前は、何をされていたのですか?
関東で、ヨガやサーフィンをするフィットネスクラブで仕事をしたり、岩盤浴施設で働いていました。そこで「治らない」と言われていた難病の人がどんどん元気になっていく姿を目の当たりにして・・・。東洋医学や自然療法のことに興味を持ちました。
なるほど、その経験が今に繋がるんですね。
そうです。そこで、まずは基本を学ぼうと思って、30歳のときに松山に戻って、柔道整復師の学校に通いはじめたんです。
30歳から専門学校へ・・・!がんばりましたね。
はい。頑張っていたのですが、専門学校2年目に難病が発覚します。柔道整復師の授業には「柔道整復師」のルーツである「柔道」の授業があるのですが、前まわり受身がどうしてもできなくて。
前まわり受身というと、「でんぐり返し」みたいなものですね!
そうです!とても簡単な動作なのに、それがどうしてもできなくて…。先生に「何か(身体的原因が)ある?」って聞かれたんですが、思い当たるフシがなかったので、帰って両親に聞いたんですね。
そしたら、お母さんが絶句して・・・。父が脳の病気「脊髄小脳変性症(指定難病18)」であることを告白されました。
なんと・・・!
僕だけではなく、父も同じ病気ということ。つまり、この病気は遺伝性であるということも知りました(遺伝でないケースもあります)。母は、僕にも遺伝していたことを知って泣いていましたね。
脊髄小脳変性症は、歩行時のふらつき、手の震え、ろれつが回らないなどの症状が見られる、神経の病気です。徐々に時間をかけて進行していき、神経変性を元の正常な状態に戻したり、変性の進行を止める治療法は今のところないと言われています。
それはショックでしたね・・・。
はい。遺伝性ということを聞いて、「自分みたいに悲しい想いをさせたくないから、子どもをつくってはいけないんだ」ということを思いました。
自暴自棄になりましたね・・・。
母も泣いていました。
それが、2018年のこと。
しゅんさんの病気が発覚してから約2ヶ月後、西日本豪雨を経験することになります。
西日本豪雨で、いろんな人が亡くなりました。広島に住む親戚の家も2階まで浸水し、愛媛でも困っている人がたくさんいる・・・。居ても立ってもいられなくなって、吉田町にボランティアで訪問マッサージをすることに。
そのボランティアの事務所として借りたテクノプラザで、まゆみちゃんと出会うことになるんです。
アリですか?ナシですか?
しゅんさんと、ほぼ同タイミングにテクノプラザに入居したまゆみさん。
同時期に入居していた人たち5〜6人で、ランチをしようということになったのですが、タイミングが合わずしゅんさんだけ参加ができませんでした。
伊藤くん、来れなかったなぁ〜。また別日に誘ってみようかな。
まゆみさんは、そんな軽いノリで、後日しゅんさんをランチに誘ったのでした。
この時から、しゅんさんはまゆみさんを意識してたんですか?
はい!事前にFacebookをチェックして、11歳年上であるということ、シングルマザーであるということを知りました。で、「子どもがいるなら安心だ」って思ったんです。僕とは子どもがつくれないので。
最初から、めちゃくちゃロックオンしてますやん(笑)!
しゅんさんは、恋をしたかったんですか?
病気がわかってから、僕はものすごい寂しさに襲われました。進行性の病気なので、将来的には介護が必要になってきます。ひとりで生きていくのはつらい。
誰かに支えてほしい、僕という存在を認めてほしい。
そう強く思ったんです。
その願望を、きちんと声にできるってすばらしいですね。
はい。
だから、ランチの日に告白しちゃったんですよね・・・。
え!?マジですか!!! はじめて2人でしゃべったその日に!?
そうなんです。まゆみちゃんと喋ってたら、「いいなぁ〜。この人とずっと一緒にいたい!!!!」って思っちゃって。
いったん気持ちを落ち着かせるために、トイレに行きました(笑)
おもろすぎっ!!!!
鏡を見ながら、リトルしゅんに聞きました。
「僕、あの人と付き合いたいんだけど、どうすればいい?」
本田圭佑かっ!!!
リトルしゅんは、どう答えたんですか?
行った方がいいよ!告白しちゃえ!!!!
やっぱりか・・・・(笑)
トイレから席に戻って、まゆみちゃんにこう伝えました。
「アリですか?ナシですか? 僕はアリです。アリなら付き合いましょう!!!」
突然すぎる(爆)!!!!!!
で、まゆみさんはどうお返事したんですか?
アリはアリやけど・・・・。え???ってなりました。
アリなんか〜〜〜いっ!!!!
離婚し、デザイナーとして独立してから2年目の年だったので。恋愛から遠ざかっていたんです。今までのパターンとは、違うことをしてみたくなって。
びっくりしたけれど、「アリかな」って。
しゅんさんもスゴイけど、まゆみさんもなかなか大胆やなっ(笑)!
僕が幸せにしてあげる!!!
それからすぐ結婚に発展したんですか?
はい!僕は早く結婚したかったんです。
まゆみちゃんに対して、僕ができることって「まゆみちゃんを幸せにしてあげること」だけなんですよね。
僕は難病を抱えていて、介護をしてもらわないといけないけれど、その分愛情を注ぐことができる!絶対、まゆみちゃんを幸せにする自信がある!
そう言い切れちゃうのがすごすぎる。その自信は一体・・・。
治療もそうなんですけどね。僕は愛情のパワーを信じています。
たとえば、ご主人に痛みがある場合・・・。奥さんが気持ちを込めてマッサージしてあげると、絶対に痛みが和らぐと思うんですよね。
「気持ち」って絶対、健康に関係ありますよ。
だから、僕は患者さんにマッサージするとき、「治れ、治れ」って祈りながら体をさわっています。
なるほど・・・!
しゅんさんの祈りのパワー、すごそうだ。
で、おふたりはすんなり結婚できたのでしょうか。
結婚を意識したものの、なかなか子どもたちに言い出せなくて。「お母さん、結婚してもいい?」と聞いたところ、子どもたちに泣かれてしまって。
しゅんくんと子ども達は何度も会ってコミュニケーションを取ってたけれど、いざ結婚のことを伝えると、「しゅんくんは、お友達ならいいけれど、お父さんになるのは嫌」って。
お子さんの気持ちもわかります・・・。
僕は、どうしても子どもたちに認められる結婚をしたかった。だから、もうしばらくコミュニケーションを取ることにしました。
そして半年ぐらい経ったところで、ふと気がついたんです。
私、まだどこかに子どもたちへの罪悪感があるって。
それがあるから子ども達も決められないんだ。
だから、言い方を変えてこう言ったんです。
「お母さんが結婚したいんだ」って。
そしたら子どもたちも、「いいよ、祝福してあげる」って。
そうして、めでたく二人は夫婦に。
2020年、しゅんさんが34歳、まゆみさんが45歳のときでした。
「愛情を表現する」ということ
それにしても、おふたりのラブラブっぷりってすごいですよね。
とくに、しゅんさん!
常に、めっちゃ「近い」(笑)
僕は、人生においてできるだけ愛情を表現していきたいって思っています。
病気がわかったとき、
西日本豪雨に見舞われたときに、しっかり意識したんです。
「一日ですべてが変わってしまうこともある」って。
だから、僕はまゆみちゃんとできるだけ手をつなぐし、愛を伝える。
一緒にたくさんお散歩して、一緒に健康になっていきたい。
恥ずかしいとか思っている場合じゃないって、僕は思っています。
治療も同じです。
患者さんを思い切りしあわせにしてあげたい。
すてきです。
しゅんさんの「お節介」は、本物ですね。
僕は、自然の力と祈りのパワーがあれば、難病も治るって信じているんです。
今は、サップに立って乗ることはできないし、階段を登るのも一人では危なっかしいし、
昔と比べて、言葉もうまく出てこないようになっているけれど・・・
でも、いつかよくなるって信じています。
しゅんさん自身が、「信じること」を体現してくれているんですね。
「信じる」と「叶う」んですよね。
実は私、過去にドリームマップのワークショップで、「海のそばに住みたい」って書いていたんです。そしたら叶った!
実は僕もそうなんです。10年前から「海のそばに住みたい」って思っていました。
そして、「大事な人ができたら、朝にサップに乗ってお散歩したい」って願っていたのですが、両方叶っちゃいましたね。
おふたりの姿を見ていると、人って助け合って生きていく生き物なんだなぁ・・・と温かい気持ちになります。
「信じること」と「愛すること」、この2つがあれば人はずっと幸せに生きていけるのかもしれない。
はい。
僕は、健康は「愛情」でつくられるって、信じています。
だから、僕はお節介に愛情を注ぎまくります。
まゆみちゃんにも、患者さんにも!
自分の気持ちにも、人に対しても、まっすぐで愛情深いしゅんさん。
そして、そんなしゅんさんの愛を真正面から受け止めて、一緒にしあわせになることを楽しんでいるまゆみさん。
おふたりの姿を見ていると、素直に幸せを求めていくことの大切さを感じました。
自分がしゅんさんの立場だったら、
まゆみさんの立場だったら。
一体どんな選択をしたでしょう。
「素直に幸せになりたい」と願うこと、「素直に愛情を伝えていくこと」。
それが、健康である一番の秘訣なのかもしれません。
写真 by mame
お節介いとうしゅん治療院〜北条しおかぜ院〜