「色と手まり」を人と人をつなぐツールに! ENNESTE・泉菜穂の考え方

「手まり」と聞くとどんなイメージが沸きますか?
ここ愛媛であれば、伝統工芸の「姫てまり」を思い浮かべる人が多いかもしれません。
ほか、「お祝い事のシーンに登場するモノ」、「高級なところに飾られるモノ」など、どこか日常とは遠い場所にある印象…。

そんな「手まり」をお仕事にしている面白い人がいるという話を聞き、どんな活動をしているのだろうとインスタグラムを訪れてみてビックリ!

カラフルで、ポップで、センスのよいビジュアルに、今までの「手まり」の概念を覆されました!

なぜ「手まり」を仕事にしたの?
どんな想いで手まりの活動をしてるの??

東京都・西萩窪で、手まりと草木染めのお店「ENNESTE(エンネシュテ)」を営む泉菜穂さん(以下、ナホちゃんと呼びます)に、たっぷりお話を聞きました。

海外の渡り歩いて身につけたコミュニケーション力

ナホちゃんは、海外での暮らしが長いって聞いたんだけど、どんな感じだったのでしょうか?

私は、東京生まれ東京&千葉育ちなんだけど、18歳でイギリス留学に行ったのね。

へ~。英語に興味があったのかな?

いや、全然(笑)!「バック・トゥ・ザ・フューチャー」とか、「グーニーズ」とかを観て「外国の子どもは、自由そうだなぁ~。いいな〜。」って漠然と思ってて。実際、住んでみたらロンドンが楽しくて。卒業後、日本にいったん帰国してアパレルの会社に就職したけれど、25歳でまたハンガリーに引っ越しすることに。

これまたなぜ、ハンガリーへ!?

大学のときからハンガリー人の彼と付き合っていて、結婚を決めたから。でも、ハンガリーってハンガリー語だし、旧共産主義の国で文化も全然違っていて。まず語学学校に通うことからはじめました。

ひゃ~、大変そう!お仕事はどうしてたの?

旅行代理店で働いてたんだけど、なかなかおもしろかった。日本では考えられないような事件がたくさん起こって、社会の裏側をのぞいちゃった感じ(笑)。見事に価値観をひっくり返されたよ。その後、仕事の関係でチェコに引っ越しして、次はチェコ語を習うことになってね。

英語、ハンガリー語、チェコ語・・・外国語を学んでばっかりの人生だねぇ!!!

イタリア語とフランス語も、、、、でも、まとも使えるのは英語だけ。チェコ語は難しくって苦戦したよ~。でも同僚が英語できる人だったから助かった。

海外生活エンジョイしてそうなのに、なんで日本に帰ってきたの?

32歳のときに離婚したのが、きっかけ。すごく落ち込んだけど、「まだ死にたくないな」って日本に帰ってきたの。

そうだったんだ・・・。久々の日本は、どうだった?窮屈に感じそう。

そう思うでしょ。でも、私が日本で就職したのが、フランスのテレビ局の東京事務所で。東京に居ながら、半分ヨーロッパに居る・・・みたいな生活を送ってたからお堅さはあまり感じずに過ごしました。

わ〜やっぱり海外と縁があるんだね。ナホちゃんって、コミュニケーション力が超絶高いって思っているんだけど、その理由は、世界の人を相手にしてきたからなんだろうなぁ。

ヨーロッパで手まりがウケた!

手まりの仕事をしはじめたのは、どんな経緯ですか?

当時、草木染めや手まりを趣味にしているお友達がいてね。ふと、「これをヨーロッパ人に見せたらどんな反応するんだろう?」と思って、フランス出張のときに見せてみたの。そしたら「セ・ミニョン!セ・ミニョン!(かわいい、かわいい)」ってとっても感動してくれて。それから、どんどんいろんなインテリアショップや手芸屋さん、ギャラリーに見せていったら、「糸を仕入れたい!」「うちでワークショップできませんか?」という問い合わせが入って来たんです。

わぁ!すごい!!!海外に、日本の文化がヒットしたんだね。

そうだね。2014年にロンドンではじめてワークショップを開催したら、即満席。頑張って40個ほど準備していった手まりの芯も完売。「こんなの見たことない!かわいい!!」って、みんなが言ってくれて。それから他の国での、取引もはじまりました。当時は、会社員をしながら副業としてやってたから、とっても忙しかった。

すごい~。それで、副業から本業にシフトしていったのかな?

メディアの在り方が変化してきて、だんだんテレビ局の仕事も下向きになってきてたから、そろそろ会社を辞めた方がいいのかな…とは思っていたとき、決定打になったのは中期中絶したことです。私は2012年に再婚をしていたんだけど、その時に命のことを考えました。「人って死ぬんだなぁ。それなら、生きているうちにやりたいことやらないと!」って。

そうだったんだ…。

それで退職を決めて、2018年に友人と一緒に手まりと草木染の事業を本格化しました。

日本でも手まりフィーバー到来

お店をしはじめてから、すぐに軌道に乗ったの?

突然中国人がやってきて50万円分草木染めの糸を買って行ったり、「サイン下さい」って言われたり。なかなかビックリするようなことがあったよ。

へぇ~!

中国では、幾何学で丸いので縁起がよいとされているみたいです。そのうち、夫も脱サラをして草木染めを手伝ってくれるようになって。Instagramを通じて、アメリカやオーストラリアなどいろんな国から連絡をもらって、糸を販売したり、ワークショップをしに出かけたり。色々なことを経験しました。

へーー!!外国語を使えるから、取引も進めやすいよね。素晴らしい。

驚くことが次々と起きて、フォーシーズンホテルやヒルトンホテルに手まりのオブジェを制作したり、「家庭画報」で年間で連載してもらったり。ロフトやハンズでの取り扱い。そうなったら良いなということが実現しました。

えーーー!すごいー!!今までの概念を覆すあたらしい「手まり」にいろんな業界が注目してくれたんだねぇ。

今まで私がやってきた仕事は、旅行代理店でもテレビ局でも「つなぐ仕事」だったんです。人だったり、国だったり。たから、その「つなぐ力」が生かされたのかなぁって思います。やってきたことに、ひとつも無駄なことなんてないんだなぁって思います。

色も手まりもプラットフォームであり、マインドフルネス!

ナホちゃんはお友達とのビジネスを解消して、2021年にENNESTEという新しいブランドを立ち上げているけれど、それはなぜ?

私のやりたい「手まり」が変化してきて、自然にそういう流れになったと思います。極めようとすると、複雑な感じの模様をつくるようになったり、高尚なアート・芸術の領域の要素が入ってくる。それもまた、ひとつの方向性ではあるけれど、私にとって手まりはあくまで「ツール」。表現やコミュニケーションのきっかけであり、媒体。人の可能性を引き出すプラットフォームにしたかった。だから、それを表現できる場所としてENNESTEを立ち上げたんです。

なるほど。ENNESTEでは、手まり以外の展示をしたり、カフェもあったり、「手まり」を媒体に、いろんな広がりをつくっているイメージ。

その通り!手まりって本当に誰でもできるのが魅力なの。白いキャンバスに絵を描くことはできなくても、手まりならできる。シンプルな規則性があって、その流れに身を任せながら、感覚的に色や刺し方を選んでいくだけ。そうするうちに、勝手に色やサイズなどで自分の表現が生まれてくる。

たしかに!私も、手まりワークショップ参加させてもらったけれど、驚くほど簡単で、集中できてすごく楽しかった。

でしょ〜。手まりはよく手芸で済まされそうになるんだけど、工作とか日曜大工に近いイメージ。ただ、道具が針と糸というだけで。それか、マインドフルネス枠。手まりつくってる時は「次、どこ刺そうか」「次、どの色入れようかな」しか考えられないから。

マインドフルネスかぁーー!!!たしかに。手まりって、日常と程遠い存在って思っていたけれど、マインドフルネスって考えたらぐっと近く感じた。

そうなの!「実用性がない」っていうのが重要だと思ってて。これが、「靴下」とか実用性のあるものだったら、つくるの緊張するでしょ。つくったのに穴が空いてたら大変だし。でも、手まりは穴空いてても可愛い、作ったらほっとしたみたいな。

だから、「今日は散歩しようと思ったけど、雨だから手まりつくるわぁー」みたいな感覚で、みんなに手まりを楽しんでほしい。

新しい世界を開くコツは「夢中になること」

ENNESTEにカフェを併設しているのは、どんな想いから?

最初は、年齢や性別、分野に関係なく、いろいろな人に手まりを知ってもらって、身近に感じて欲しかったから。でも、今では「つなげる」場所が欲しかったからだったんだなと思っています。カフェでは、クリエイティブアワーを設けて、手を動かすコトが好きな人、過去の私みたいに人生が変わるきっかけを探してる人がつながればなと思っています。

一時期流行ったニットカフェみたいな感じかな。スタバ行ったら、みんなパソコン持って仕事してるみたいな…?ローカルのカフェやバーで知らない人が会話するみたいな?

そう。そんな感じが理想!手しごとって、面と向かって話さなくても気後れしないコミュニケーションが成立する実感があって、恥ずかしがり屋さんでも他人と知り合うツールだと思っています。

私にとって、「夢中になること」は、自分をどこか次の場所に連れて行ってくれることって思っていて。まさに「色と手まり」は、私を新しい世界に導いてくれた。この感覚を色んな人に共有したいなーと思っていて。ENNESTEでは、その夢中になれることを提供できるな思っています。

まさに、ナホちゃんは「夢中」を体現している人だねぇ。色と手まりに夢中になって会社を辞めて、お店をつくって。色と手まりで自由を手に入れたんだもんね。

ストーリーを込めた文字のないお手紙

私は、「色」が大好きだから、糸を並べてるときに口角上がりっぱなしなんだよね。

筋肉痛になるほどってよっぽど(笑)!ENNESTEの糸は数が半端ないよね…。あれが全部草木染めってすごすぎる。

染めているうちに自然にできた色で、エンネシュテカラーって呼んでいるですけど、ここには225色あります。草木染ってとっても不思議でね。色の具合が、とっても調和的。こんなに色数があっても喧嘩しないんです。

ときどきインスタライブで草木染の説明しているけれど、あれは季節ごとにカラーがあるの?

そう、季節によって使う草花が違うから。それを紹介しています。同じ黄色でも、エンジュ、ハルジオン、玉ねぎでは表現が違うんです。

なるほどー!面白い。それでいうと、手まりの模様の種類もいろいろとありそう。

そう。全部幾何学の組合せだから実はシンプル。組合せでたくさんの種類が出来るよ。幾何学模様の世界は広くて、日本人が意味も込めて「」と呼ぶ形は、ラトビアでは「ゴットアイ(神の目)」と呼んだり。日本伝統なのに、他の国の伝統模様でもあったり。余談だけど、手まりに興味を持つだけで、こんな風に知識や世界が広がるんだよね〜。

私は、伝統の模様を今の感覚でつくる、違うものがミックスする感覚が面白くて。模様の意味とか、草木染でつかう植物の花言葉とか、採れた地域とか、色や模様、素材にストーリーをのせて文字にしないお手紙的な要素もあるなと思っています。

わー!!とってもすてきだなぁ。さらに手まりに興味が出てきた。ナホちゃんは価値をつくっていくのがとても上手だね。

さらにこれから、やりたいことはありますか?

今後は、好きなインテリアの要素を取り入れて、インテリアの中で手まりを見せて行くっていうのをやりたいなと思って、デンマーク、スウェーデンで調査してきます!

さすが・・・! 海外で調査!
これからの、ENNESTEが楽しみです♪

今まで、自分の人生には全く関わってこなかった「手まり」。ナホちゃんのおかげで、ぐっとその存在が近くなりました。人、国、文化をつなぐツールとして。マインドフルネスアイテムとして。いろんな可能性を感じた「手まり」。これからも注目してみたいと思います♪