人間配達人・坂山憲史という男

南松山病院副院長の坂山憲史(さかやま けんし)先生をご存知でしょうか?
 
版画家・調理師・医学博士という一風変わった肩書きを持つ、このお方。

今回、小池先生とともに、人間配達塾の講演会に登壇されるということでインタビューに伺って来ました。

『人間配達』に時間とお金をかける

坂山先生は、『慟哭』(アトラス出版)というエッセイ集を出版されています。
事前に読ませていただいたのですが・・・華々しい経歴と才能にちょっとドキドキ。

しかもこの日は、救急日。
急患が飛び込んで来るかもという、緊迫した状況。
(実際、急患の方やって来られました)

最初は私なんかがお邪魔していいのかしらと緊張しながら、診療室にお邪魔しました。

カタカタとお忙しそうにしている坂山先生でしたが、部屋に入るなり

「バナナ食べる?」

いきなりのバナナプレゼントに戸惑いながらも、緊張がとけました。

名刺を交換すると、「出身は?血液型は?」と質問され、逆に取材をされているような気分に・・・

坂山先生は、出会った人みんなの名刺にその人の情報をメモし、
ストックしているのだそうです。

こんな感じで。
坂山先生のお財布の中やデスクには、出会った方々の名刺がたくさんありました。


著書の『慟哭』にも書いてありましたが、坂山先生は相当のグルメ!
しょっちゅう人に呼び出されては、飲みに行っているそうです。

たかられてるだけだよ(笑)」と笑っていましたが、
色々な人に慕われ、いろいろな人を繋いで来たのが窺えれます。

お医者さんと言えば、
高級車に乗ってブランド品を身につけている・・・という勝手なイメージがありますが坂山先生は、「車にもブランド品にも一切興味がない」とのこと。

時間とお金をかけているのは、版画の道具と版画の額代、そして人間配達(人付き合い)なのだそうです。


患者に深く寄り添う

坂山先生は、南松山病院の副院長であり、骨軟部腫瘍センター長を勤めていますが、その腕は天才的と認められています。

今まで手がけた手術は約12000例。
そのうち、感染は1例のみ。
骨肉腫に関しての局所再発はなし、という世界最高レベルの技術を持っています。

このように数々の教科書も執筆されています。

後ろには、「人の心を動かすものは人の心のみ」とのことば。
坂山先生の座右の銘なのだそうです。

一見、毒舌に見える坂山先生。

いや・・・実際、結構はっきりとモノを言う(笑)、ユニークな方なのですが
患者さんに妙に気に入られてしまうことが多いのだとか。


例えば、自閉症で、難治性の骨軟部腫瘍を抱え、
手術の受け入れ先がなく、病院を転々としていた濱田晋太郎くん。

他人とコミュニケーションを取るのがあまり上手ではなかった晋太郎くんですが、
坂山先生にはすぐに懐いてしまったとか。

入院初日、「自分の手術のときにこれをつけてください」と手渡されたのは、「必勝ハチマキ」

坂山先生は、ためらいもせず、必勝ハチマキをつけて手術に挑みました。

手術は大成功!
今も、再発していません。

それ以降も坂山先生は、食事に連れ出したり、温泉に連れて行ったり・・・。
患者と医者を超えた関係です。

こういったケースは晋太郎くんだけではなく、
坂山先生は、患者さんお一人お一人に、本当に真剣に向き合っていて。
数え切れないほどのエピソードを持っています。

そして、そのエピソードは、ときに版画作品となっていたりもします。
坂山先生はとにかく「人を喜ばせたい」という気持ちが人一倍強いのです。

人と人を繋ぐのもそう。
医者として、人を助けるのもそう。

その想いこそが坂山先生を「人間配達人」として動かす源なのです。

版画は修行のようなもの

坂山先生は、優秀な医者であるとともに、才能溢れる版画家でもあります。
南松山病院の受付に飾られている版画。
こちらも坂山先生の作品です。

診察室にも版画作品が。

どの作品にも共通して言えるのが、強い生命力を感じるということ。

坂山先生の奥深くにある考えや、人間の強さが反映されています。

医者という仕事は、本当に多忙です。

しかも、坂山先生は人間関係を大切にされる人。

夜は飲みに誘われると断れず、ついつい出て行ってしまうそう。

一体、いつ、どこで、どうやって版画をつくっているのですか?」と尋ねると
副院長室に案内してもらいました。


中に入ると、版画の山・・・!


今、作りかけている作品の試し刷りもたくさん壁に貼ってありました。


坂山先生は当直のときに、副院長室で黙々と版画を制作するそうです。
使ったことがある方はわかると思いますが、彫刻刀は長時間持つと、手が痛みます。

坂山先生の手を見ると、彫刻刀でできたタコが。
ときには血が滲むこともあるそうです。

それでも、彫り続けるといことは、どういうことなのか !?
張り詰めた医療現場での息抜きなのでしょうか?

版画は趣味なのですか?」と尋ねてみると、

版画をしても全然リラックスできない。喜びも感じないし。
どちらかというと、苦痛。何かの罪滅ぼしをしているような感覚。
修行のような感じかな・・・

という、意外なお答え。

坂山先生にとって、版画は
言葉では表現できない内面的な葛藤や想いを具現化する自己主張の場

風景を単に写すだけなら、模倣にすぎない。
上手できれいな絵であれば、誰にでもできる。

お話を聞いて、坂山先生の人柄を知り、作品を見せていただき・・・
すっかり坂山先生のファンになってしまいました。

人間配達 の講演会に合わせて、
子規記念博物館にて9/24(日)〜10/7(土)まで坂山先生の個展も同時開催されます。

そしてそして!
9/25からは、郵便局よりオリジナル記念切手が発売となります。

坂山先生の、どこか毒っけがあって、でも生命力を感じる、パワーのある作品。
ぜひご覧になってほしいです!!

坂山くんはダメ人間!?

坂山先生は、数々の有名人とも知り合いですし、
かなり顔が広く、いろんな人に慕われています。

「なぜそんなに人とつながりを築けるのですか?」と尋ねたところ。

それは、僕がダメ人間だからでしょう」とのこと。

学生時代のときからずっと自由人で、普段はあまり勉強をせず
テストの前になると順番に優秀な同級生に呼び出され、勉強を教えてもらっていたとか。
(それでも半端ない集中力でいつも好成績)

高校時代には、読んでもない本の感想文を代筆するという、片手間のアルバイトをしていたり・・・
(その本が日本一の賞を取ってしまったこともあるとか!)

なんだか、とっても不思議な人(笑)。

坂山先生が結婚したことを聞いて、
「あのダメダメな坂山くんが結婚した奥さんってどんな人!?」と
学生時代の同級生の女子総勢11名の全員が自宅に駆けつけたこともあったとか。

そんなエピソードからうかがわれるのは、坂山先生の飾らない性格。
でも、やるときはやる!
そんな人。

坂山先生が「人間配達人」たる理由をたくさん見つけることができたインタビューでした。

坂山憲史

南松山病院副院長(骨軟部腫瘍センター長) 版画家・調理師・医学博士

http://www.minami-hp.or.jp/